婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。
【西山敬太/長谷川真凛】
――考えてみれば、それが全ての始まりだった。
「西山敬太殿、おめでとうございます!貴殿の『婚約者』が決定致しました!」
高等部行きが内定して、少し心にゆとりのできた中等部3年の夏。
執務室へ呼び出された俺に親父から伝えられたのは、そんなどうでもいい話だった。
「……あっそ。で、相手は?やっぱり良家の子女?」
「そ、そうだけど……。敬太、何か怒ってる?いつもよりツッコミにキレがないいよ!?
やっぱり勝手に婚約者を決めちゃダメでありましたか軍曹!」
「やかましいわ!誰が軍曹だこの野郎!!っつーか怒ってんのはそこじゃねぇ、今の親父の格好だよ!!」
思わず怒鳴ると、親父は怒るどころか満足げに笑って
「ナイスツッコミ!」
と親指を立てた。褒められても嬉しくねぇ。