続・赤い流れ星
不意に流れ出した軽やかなピアノの音色…



(あれは確か…)



「はい。」

やはり、その曲はアッシュの携帯の着信音だった。
料理をする時にまで携帯を持っているあたりが、いかにも今時分の若者だなと俺は俯いて苦笑した。
アッシュは台所から出て来て、誰かと何事かを話している。



「……うん、わかった。
じゃ、今から向かうよ。」

そう言うと、アッシュは携帯をぱちんと閉じた。



「カズ、マイケルからのお呼びだ。」

「何かあったのか?」

野々村さんも台所から心配そうな顔をのぞかせた。



「とりあえず、僕の手が借りたいみたいだよ。
あ、心配することはないから。
とにかく、僕、今からちょっと行って来るね。」

「そうか…じゃ、何かあったら電話してくれよ。」

「うん、わかってる。」

そう言って歩きかけたアッシュの足が急に停まり、俺の方を振り向いた。



「カズ…二人っきりだからって、野々村さんにおかしなことしちゃ駄目だよ。」

「……アッシュ!」

アッシュは悪戯っぽい表情で片目を瞑って見せた。
野々村さんは、アッシュの冗談を真に受けたのか、落ち付かない表情で頬を赤らめ、俺と視線があうとさらにその顔は赤くなった。



(アッシュの奴……)



数分の後に、アッシュは着替えを済ませ、家を後にした。
幸い、あたりは暗くなっていたし、このあたりはそれ程人通りも多くないから目立つ事はないだろう。



(それにしても、何だったんだろう…
また後でマイケルに電話してみよう。)



「野々村さん、すみません。
アッシュがつまらない冗談を言って…」

「い…いえ…そんなこと…
それより…どうしましょ。
アッシュさんに粕汁の作り方を教わってたんですが…このまま煮込んでたら良いのかしら?」

「……俺も料理のことはわからないけど…多分それで大丈夫ですよ。」

「じゃあ、もう少し待ってて下さいね!」

野々村さんは、いそいそと台所へ戻って行った。
料理が粗方出来上がっていて良かったと思った。
それに、よくわからないが粕汁ならそう難しいものでもなさそうだ。
とりあえず、ちゃんと煮込みさえすれば失敗のしようがないだろう。
いくら料理が苦手な野々村さんでも、きっと、それなりのものが作れるはずだ。



(それにしても、粕汁だなんて…
アッシュ、おまえ、本当は日本人じゃないのか!?)



俺は心の中でそんなことを呟いて失笑した。
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