続・赤い流れ星
「いただきます!」

そう言うと、野々村さんは一気にワインを飲み干した。
たいした量ではないが、野々村さんはアルコールに弱いから少し心配になった。
けれど、これ以上飲まさなければ大丈夫だろう。



「野々村さん…ところで、美幸の方はどうなっていますか?
ずっとおたずねしたかったんですが、アッシュがいたから訊けなかったんです。」

「そ…そのことですが……」

俺がその質問をした途端、野々村さんはなにやら落ち付かない様子で口をつぐんだ。
何かあったんだろうか?
言うのを躊躇う程の何事かが美幸の身に…!?



「野々村さん、おっしゃって下さい!
どんなことでも、俺は受け止める覚悟は出来ています。
美幸に何があったんですか?」

「そ…そういうことではなくて…あの…その…」

野々村さんの目の動きはますます忙しくなり、そして目の前の瓶を掴み、そのままワインをらっぱ飲みし始めた。



「の、野々村さん!落ち着いて!」

俺のその声で、野々村さんははっとしたように瓶を口から離した。



「……大丈夫ですか?」

「わ…私ったら、なんてことを…」

ワインのせいか、自分でも思い掛けないことをしてしまったせいなのか、野々村さんの顔はすでに真っ赤になっていた。



「そんなことより…野々村さん、水を飲んだ方が良い。」

「あ、私が…」

俺と同時に立ちあがった野々村さんが一歩踏み出したかどうかという所で、その身体は唐突にバランスを崩した。



「あ、危ない!」

俺は咄嗟に野々村さんの身体を抱き止めた。



「あっ!な、あわっ!」

野々村さんは俺を突き飛ばし、わけのわからない言葉を発し…



「ご、ご、ごめんなさい!
ごめんなさい!
私……私……」


そのまま崩れるように床にしゃがみこみ、野々村さんは顔を覆って声をあげて泣き始めた。



「ど、どうしたんです?野々村さん!」

俺には全くわけがわからなかった。
野々村さんが泣くようなことはなにもない筈だ。
料理の味付けをしくじったことがそれほど悲しいのだろうか?
いや、それとも、俺が味見をするように言ったのが悪かったのか?
もしくは、さっき俺を突き飛ばしたことを後悔しているのか?
どれもたいしたことではない。
だけどそれは俺が思うことで、もしかしたら野々村さんにとっては、大変なことなのかもしれない。



(困ったな……)

原因がわからないだけにどう声をかけようかと悩んだ俺は、とにかく野々村さんに水を飲ませることにした。
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