続・赤い流れ星
「あ、あの…さっき、お弁当を買って来たので、今温めますね。」

「すみません。」



昨夜のことを思い出すと、なんだか少し気恥ずかしくて、俺は俯いたままそう答えた。



過去のことを話したのは俺だけじゃなかった。
昨夜は、野々村さんもいろいろなことを話してくれた。
話は、年を取るに連れて深くなっていった父親との溝のことから始まった。
高校受験に失敗してからは、まるで見捨てられたような状態になり、それからは挽回のチャンスさえなかったらしい。
野々村さんは、就職先で男性とつきあっては捨てられるといったことを繰り返し、その度に職を転々としたということだった。
そのことに対しても父は何も言わず、それが却って苦しかったと野々村さんは顔を歪ませた。
誰に対しても自分の意見が言えず、ただ流されるばかりの人生にいやけがさし、心の底では死を願う日々だったと聞いた時、俺の心は震えた。
俺と同じだ…
自分のことがいやでたまらず、この世から消えてしまいたいとそんなことばかりを考えていた俺とそれは同じだった。

やがて、父親が突発的な病気で倒れ、命は取りとめたものの意識を失った状態になってしまった。
その時の彼女は、心配と同時に心の重石が取れたような気分を感じたと言った。
そして、そんなことを考えてしまったことへの罪悪感が今でも拭い去れないと言って、涙を流した。
その頃、野々村さんは昔から興味のあったライターとしての仕事を始めたらしい。
父親にはそんな仕事をしたいとは言えず、ずっと諦めていたことが父親の病気によって実現出来たということだった。
しかし、世間は甘くはなかった。
想像していたものとは全く違い、ろくな仕事ももらえず、何年経っても雑用ばかりの日々に心が折れた頃、看病に疲れた母親が呆気なく逝ってしまった。
悲しみに暮れる暇もない程、慌しく過ぎる日々…
そして、母の四十九日を待たずして、今度は父親が亡くなった。
野々村さんは、両親の死をまるで自分の罪のように感じていた。
疎ましい父親が倒れた時に、どこかほっとした気持ちを感じたこと…
見舞いには行ってはいても、眠る父親に何かを話しかけることもなく、母親の気持ちや体調のこともそれほど深くは考えていなかったこと…まるでそのせいで両親が死んでしまったかのように感じている。
両親が亡くなってからの野々村さんは、しばらくは外へも出ず、家でずっと泣き暮らしていたという。
その後、たまたま舞いこんだゴーストライターの仕事で、野々村さんは皮肉にも今まで自分のコンプレックスだったあの能力を開花させた。
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