青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
けれど、池谷くんはそれをサラリとかわすと、こっちを向く。
…え?
目があって、一瞬ビクリとした。
クラス中が注目するなか、彼はあたしの後ろを見て、口を開いた。
「利乃」
…澄んだ、優しい声。
彼が目を細めて呼んだのは、あたしの後ろで隠れるようにして縮こまっている、利乃だった。
利乃は池谷くんと目が合うと、諦めたようにふぅ、とため息をつく。
そして、いつも通りの利乃の笑顔とテンションで、返事をした。
「久しぶりっ、慎ちゃん!」
……『慎ちゃん』。
その呼び方が、ふたりの仲の良さを表しているようで。
あたしを含め、みんながふたりの雰囲気に、驚いている。
そんな中、ふたりは一限目が始まるまで、楽しそうに話をしていた。
「幼馴染?」
その日の、放課後。
やっぱり雨が降りしきる中、あたしと利乃はいつも通り、ふたりで帰り道を歩いていた。
池谷くんについて聞くと、利乃はニッコリと笑って「幼馴染なの」と答えた。
「家が隣でね、ちっちゃい頃からよく遊んでたんだけど。中学卒業したあと、慎ちゃんがお家の都合で、東京に引っ越すことになって」
そこで、利乃の家の隣が、空き家だったことを思い出した。
…あの家が、池谷くんの家なのか。
池谷くんは一限目が終わったころから、男子に話しかけられたり女子に話しかけられたりで、忙しそうだった。