青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
……『麗奈』。
優しくてよく通る、彼の声がそう呼ぶ。
小さくても一歩、近づけた気がした。
*
『慎也』。
そう、麗奈ちゃんは呼んでいた。
「……トモくん」
忘れ物を取りにいった校舎は、運悪く七時の五分前に閉まっていた。
だから、私とトモくんは仕方なく、引き返してきたんだけど。
「………うん」
麗奈ちゃんと慎ちゃんが、まだ手洗い場で話している。
私とトモくんは、その近くの壁際で、隠れるように立ち止まっていた。
空はもう、茜色に染まっている。
見上げながら、小さな声で彼の名前を呼んだ。
トモくんは、そう一言返事をしただけ。
俯いている彼の目は、いつものように明るくはなかった。
肩が、彼の腕にぶつかる。
ふたりの笑い声が、遠くに聞こえる。
私はトモくんを横目に見て、目を閉じた。