青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


…あのふたりから、逃げるように。

気づいてしまった事実から、目を背けるように。


『あの海を見てたら、安心するもん』


……それ、は。

あの雨の日、彼が『海になりたい』と言ったときの。


『…海ってさぁ、見てると安心するじゃん』


同じ、ことば。


「………は、はぁ、はぁっ………」

昇降口の近くの自販機の前で、立ち止まる。

息を短く吸いすぎて、咳き込んだ。

絶え間無く出てくる涙が、悔しい。


「…っうぅ、わぁぁん…」

座り込んで、嗚咽を漏らして泣く。

信じたくない、信じたくない、けど。


……なんで、気づかなかったんだろう。

教室の窓から見える、あの海の近くには、利乃と慎也の家があるんだ。

『海を見てると安心する』のは、慎也じゃない。

それは、利乃だ。

利乃が『海を見てると、安心する』。



……だから彼は、『海になりたい』。



< 202 / 380 >

この作品をシェア

pagetop