青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


『だからね、まだつけないの。ケースにいれて、いつも鞄のなかにそっとしまっておくの。お守りなんだよ、わたしの』


…利乃が言うには、あのクラスの女子達は、俺と利乃が家へ帰ったあと、すぐに利乃の家へやってきたという。

学校でいつのまにかランドセルから取られていたブレスレットは、返してと叫ぶ利乃の目の前で、堤防から投げ捨てられたらしい。

たぶん、後藤リエが言い出したんだろう。

自分の母親までもが利乃を気に入ってしまったことが、許せなかったのだ。



『……利乃ちゃんは、あの子達にあんなに嫌われてるのに、なんでそんなに強いの?』


泣きながら『あきらめない』と叫んだ利乃が、目に焼きついている。

…本当はきっと、強いわけじゃないんだと思う。

あんな風に、泣ける子だ。

普段は、強がっているだけなのかもしれない。

利乃はまっすぐに海を見つめて、『あのね』と話し始めた。


『…わたしのパパ、全然帰ってこないでしょう。結婚してすぐに、お仕事無くなったんだって』


…そんな父親に、母親は一生懸命に働き始めた。

今の一軒家も、裕福な家庭の娘だった母親の貯金から出したという。

なんでそんなこと知ってるんだと訊いたら、利乃は照れたように『えへへ』と笑うだけだった。


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