青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
だから、俺がいちばん知ってるんだ。
この子が本当に、いつでも笑っていたこと。
『……本当は、泣きたいんだろ。利乃ちゃんは隠すのが上手いから、誰も気づかないんだよ。言ってくれなきゃ』
夜の海の、波の音が耳に響いてくる。
ーーザザン、ザザン…
冷たくて優しい風が、俺と利乃の間に吹き抜ける。
利乃の綺麗な肌を、月明かりが白く照らした。
『…じゃあ、呼ぶから。くるしいとき、呼ぶから。…助けに、きて』
利乃はそう、潤んだ瞳で言った。
その言葉に、ああ俺はこれが聞きたかったんだと思った。
俺のことすら忘れて、家でひとりすすり泣く母親。
もとから優しく暖かな人だから、俺の前では一生懸命に笑顔でいようと努めていた。
…辛いなら、ちょっとくらい言ってくれたらいいのに。
ずっとそう、思っていたから。
『……うん。利乃ちゃんが泣きたいときに、そばにいてあげる』
潮の匂いが、鼻先をくすぐる。
幼くて、子供っぽくて。
それでもその言葉を、頼りないとは思わなかった。
俺はきっと、これからもこの子と一緒にいるんだ。
その華奢な体が自由に舞うのを、俺はいちばん近くで見てるんだ。
……ほんの少しも疑わずに、そう思った。