青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
何も言わず、その手を握りしめる。
利乃は苦しそうに、『あのね』と震えた声で、言った。
『わたしはね、ママがお水の仕事をするのも、新しい恋人を作るのも、別にいいの。ママの人生だから』
『…うん』
『でもね、わたしがいちばん悲しいのは、わたしのせいでママが、幸せになれないことなの』
唇を噛んで、眉を寄せて、俺の手を強く握って。
海を見つめて、そう言った。
…利乃は、一度だって母親のことを悪く言ったことはなかった。
母親のことを何よりも尊敬していたから、責めることも、母親の前で泣くこともしなかった。
…利乃は本当に、まっすぐに母親を愛していた。
『…だからね、慎ちゃん』
その声に、海を見ていた視線を横へ向ける。
…滅多に泣かない利乃が、瞳に涙を浮かべていた。
涙の溜まった瞳を見開いて利乃を見つめる俺を見て、利乃はへラリと力なく笑った。
『……海を見てたら、落ち着くね。……それにね、慎ちゃんの声を聞いてたら、泣きそうになる』
その声は、ひどく震えていた。
久しぶりに聞いた、涙のまじった声。
利乃は、ぎゅっと俺の手を握りしめる。
ポタポタと、その瞳から涙がこぼれ落ちた。