青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
利乃はテトラポットからひょいっとおりて、砂浜へ駆ける。
その華奢な背中に、いっぱいの朝日を浴びて笑った。
『ねえ、海が綺麗だね、慎ちゃん。今日も頑張ろうね。いっぱい笑おうね。たくさんたくさん、笑おうね』
…うん。
その姿がまぶしくて優しくて、目を細めた。
たくさん泣いた夜が終われば、たくさん笑うと誓い合う朝が来る。
そうして家へ帰ると、俺たちは何事もなかったかのように親へ笑いかけた。
泣きたくなったらベランダへ行って、どちらからともなく誘い、親が寝静まった頃に家を抜け出す。
手を繋いで、一晩中海で泣き、朝になるのを待つ。
そんな時間が、俺と利乃に度々訪れるようになった。
『ねえ、慎ちゃん。声を上げて、泣いてもいいよ。周りに聞こえないように、抱きしめてあげる』
利乃が、優しく目を細める。
小学校を卒業して、中学校へ入学して。
少しずつ大人へ、綺麗な女の子へ変わっていく利乃は、唇に人差し指を当ててそう言った。
『何も言わずに、手を繋いでね。きっと私はすごく泣いちゃうけど、学校では秘密にしてね。…滝本利乃は、笑顔が可愛い女の子だから』
……学校へ行ったら、笑いあって。
夜になったら、泣き合う。
僕らはそんな、悲しい関係だった。