青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
『慎ちゃん』
そう呼べば、彼はあの頃の『約束』を守って、一緒に海へ行ってくれるだろう。
何も言わずに手を繋いで、私の気が済むまでそばにいて、泣かせてくれる。
…だって、そういう人だもの。
「………っ」
胸の奥で、行き場のない感情が暴れまわる。
息が詰まって、苦しくなって、ああ、おかしくなりそう。
いろんな記憶が、頭のなかを駆け巡る。
…ひとりぼっちの、家の中。
彼と過ごした、海での時間。
『わたし』のせいで泣いている、ママの背中。
何があっても一緒にいてくれていた、唯一無二の彼。
……ぜんぶぜんぶ、壊れていく。
慎ちゃんがいて、寂しさが少しの苦さを帯びた甘さへと変わっていた、あの日々が。
壊れていくよ、慎ちゃん。
…でも、それでも耐えなきゃいけないの。
私は、君から離れなきゃいけないの。
ぎゅう、と手のひらを握りしめて、精一杯に息を吐く。
そして新しい酸素を吸い込んで、瞳に浮かんだ涙を拭った。