青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。

君の嘘、海の名前




『慎也はそれでっ、幸せになれるの!?』


麗奈の言葉が、耳の奥に残って、離れない。


…『幸せ』、か。

そんなの、考えたことなかった。


家に帰る気にもなれず、街中をひたすら歩き回る。

あのあとすぐに降ってきた雨は、すぐに止んだ。

けど、傘もささずにいたせいで、髪はびしょ濡れだ。


……麗奈、折り畳み傘持ってるって言ってたっけ。

ちゃんと傘、さしたんだろうか。

今頃、俺みたいにびしょ濡れになっていなきゃ、いいけど。

そんなことを思って、さっき突き放したばかりなのに、と気づき、思わず笑いがこぼれた。


…結局もう、ダメなんだ。

あんな風に突き放したって、結局気持ちを誤魔化すことなんか、できない。


好きだよ。

麗奈のこと、好きだけど。


……俺じゃ、ダメだ。


東京からこっちに戻って、転校してきてから、一ヶ月半。

そんな短い間に、麗奈は随分と大きな存在になって、俺のなかに入ってきた。

俺以外に心を開くことがなかった利乃が、あんなにまで懐いてる。

気になったのは、そんな理由からだ。

…けど。

見ていたら、よくわかる。

利乃とは違う、『麗奈』という女の子。



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