青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


でも、一度声にしてしまったら、もう強くはいられない気がして。

この気持ちに名前なんか、つけたくない。

そんなの、いらない。


幼い頃、無邪気に彼へ想いを伝えていた、馬鹿みたいな私。

簡単に言えた『好き』の言葉が、こんなにも重みを持つようになった。

先に大人になったのは、どっちなんだろう。



『わたし、きっと慎ちゃんがいてくれたら、もう何もいらなくなっちゃうね』



あの言葉が、すべて。

わがままで誰にも知られたくない想いの、すべて。


“ 彼さえいれば、それでよかった ”


そんな願いは、もう許されない。

ねえ、お願いだよ、みんな。


『逃げんな』って。

『利乃はずるい』って。

わかってるよ、わかってるから。

お願いだから、目を背けさせて。


東京へ行く前、私のために『残る』と言った慎ちゃんの姿が、頭から離れない。

私は彼を、ダメにする。

だから私は、彼がいなくても笑うことができる女の子に、ならなきゃいけないんだ。

私は私の力で、幸せになるって決めたから。

…離れなきゃ、いけない。



私と慎ちゃんが、前へ進むために。








< 329 / 380 >

この作品をシェア

pagetop