青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


あの夏の日に、ふたりでもう一度帰るんだ。

それぞれの道へ、歩いていかなきゃ。

…お願いだよ。


ひとりで歩き出すために、手を繋がせてよ。



「夏が終わるね、慎ちゃん」

…ああ、ダメだ。

握る手の感覚が懐かしくて、海の優しさが心地よくて。

泣くのを、こらえられそうに、ない。


「ねえ、今年はどんな夏だった?何を見て、何を感じた?…慎ちゃんの目に、何が映ってた…?」


涙が、頬を伝う。

それでも一生懸命に、私は笑った。

慎ちゃんは目を細めて、「…なんでそんなの、訊くんだよ」と言う。

…だって、だって。


「だってもう、わかんないんだもん」


目をきつく閉じて、涙をこぼす。

私はもう、慎ちゃんのことがわかんないんだよ。

あの頃のように、ぜんぶわかってあげられない。

離れていた一年が、どれだけ大きなものだったかが、わかる。

慎ちゃんのいちばんじゃなくなった私はもう、慎ちゃんをいちばんにわかってあげられない。


「もういいんだよ、慎ちゃん」


手のひらから伝わる温もりが、私を弱くする。

でも、こらえなきゃいけないから。

前に進むって、決めたから。


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