青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


「慎ちゃんだって、気づいてるでしょう?もう私達、ふたりきりじゃないんだよ」


目をそらさずに、前を向いて。

私達、ふたりきりだったね。

ふたりで、生きてたね。

…だけど、もう、違うんだよ。


慎ちゃんが唇を噛んで、「…利乃」と呼ぶ。

…今まで、何回呼ばれただろう。

君が呼んでくれる名前は、それだけで大切にされているような気がして。

私はいつだって、嬉しかったよ。


誰より愛しい響きをして、私の中に残っているよ。


大好きだよ、今でも、ずっと。

私はこぼれる涙を拭うことなく、「ねえ、慎ちゃん」と呼ぶ。

だって、きっともう最後だから。

君の前で泣くのも、きっと最後だから。

……思い切り、泣かせてね。


「今年の夏、楽しかった…?」

「…楽しかったよ」

「慎ちゃん、いっぱい笑ってたもんね」

「…うん。利乃がいっぱい、笑ってたからね」

だから笑えた、なんて。

涙声でそう言う君に寂しさが募って、どうにかなりそう。



< 368 / 380 >

この作品をシェア

pagetop