青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


目を見開く私の顔を覗き込んで、君は誰よりも優しい笑顔で、笑う。

…それは見たことないほどに、無邪気な笑顔で。



「…好きだよ、利乃。今までずっと、ありがとう。…利乃がいたから俺、寂しくなかったよ」



……慎ちゃん。

慎ちゃん、慎ちゃん。

彼は私の頬から手を離して、切なげに微笑んで。


……私の前から、消えていく。


駆けていくその先にいるのは、私にとっても大切な人。

慎ちゃんが海からいなくなっていくのを、私は見つめることができなかった。

その場にしゃがみこんで、涙を流す。


……君とふたりだけの『約束』と、お別れ。

朝になっても、無理に笑わなくていいよ。

寂しい寂しい夜は、きっと君の大切な人が、愛してくれるから。

……どうか。


幸せになって。


そのとき、近くでジャリ、と砂が踏まれる音がした。

驚いて、振り返る。

私の前に立って、何も言わずに見下ろしてくる。

…そこに、いたのは。


「…トモ、くん」


彼は目を細めて、ふ、と笑った。



< 371 / 380 >

この作品をシェア

pagetop