いつでも王子様
薫の声につられるように、私は薫の背中を揉み始める。
バスケで鍛えられた体にはほどよい筋肉がついていて、強く力をいれなければコリをほぐすなんてできない。
最初は軽く撫でるように触れていた手にぐっと力をこめ、私の体重を乗せるように揉みほぐしていく。
確かに硬いような気がして、何度かそこを重点的にほぐしていった。
すると、薫がくすくす笑いながら体を震わせた。
「璃乃が軽すぎて、なんだかくすぐったい」
「か、軽い?でも、一生懸命やってるのに……」
「まあ、璃乃のその細い体で俺の体をほぐそうなんて無理だよな。よし、交代」
「え?交代……うわっ、ちょっと、どうして……」
薫の背中に置いていた私の両手は、くるりと体の向きを変えた薫の手によって掴まれた。
そして、戸惑う私に構うことなく私の体は反転させられ、気付けばラグの上に仰向けに押し倒されていた。
目の前にある薫の整った顔、そして薄いベージュ色の天井が見える。
「薫、ふざけないでよ。ちょっと、どいて……」
「へえ、小さな頃に転んでできた傷が、まだ残ってるんだな」
「……あ、う、うん」
私の額にかかる髪をすっと払いながら、薫は懐かしそうな表情で笑った。
そして、少しずつ近づいてきた薫の顔をよける間もなく、その唇が私の額に落とされた。
「か、薫……」
小さなリップ音が聞こえ、同時に薫の指先が私の頬をたどる。
視線を向ければ、見慣れているはずなのに初めて見るような瞳が私を見つめていて、一瞬で囚われてしまった。
額に感じた熱は、冷めることなく残り、私の体を包み込む薫の重さによって、更に熱くなっていく。
そんな状況が理解できなくて、私はただ薫が落す唇と指先の動きに反応するだけだ。
グイっと掴まれた顎は、抵抗することもできず目の前にある薫の瞳を見るように固定され、そして、薫の反対側の手が私の背中に回って抱き寄せられる。
「そんなに俺と一緒に暮らしたくないか?また、俺から逃げたいか?」
「逃げる……って、そんなの……あうっ」
戸惑う私の声に構うことなく薫は私にキスをし、驚いた私がはっと口を開けた瞬間舌を差し入れてきた。