いつでも王子様
脳裏に浮かぶのは、薫が璃緒ちゃんを連れて家に帰ってきた時のことだ。
母さんから頼まれたお菓子を薫の家まで届けにいったあの日、璃緒ちゃんを駅まで迎えに行った薫と会った。
薫の隣で優しく笑う璃緒ちゃんを『彼女』だと紹介された時の苦しさは今でも覚えている。
私にいつも向けられる表情よりも少し硬い笑顔は、きっと照れているからだろうと思えば更に悲しくて。
『そうなんだ。お似合い……。あ、このお菓子ね、竜也お兄ちゃんが設計デザイン大賞を獲った内祝いなの。おばさんに渡しておいて』
薫の顔を見るのもつらくて、俯いたままそう言って、お菓子を薫に押し付けて帰ったっけ……。
「あの日、私が一晩中泣いたこと、薫は知らないでしょ」
くぐもった声で再び薫を責めた。
長い間心に秘めていた悲しみは、一旦堰を切ると留まることなくあふれ出てくるようだ。
言いたくても言えない思いが自分の手に負えない勢いで口から零れ落ちる。
すると、大きく息を吐いた薫が、私の頬の涙をそっと手のひらで拭い、そのあとを唇でたどっていく。
するすると掠める唇に私の鼓動は大きく跳ねるけれど、勢いよく感情が反応している今、それを止める力もなく、ただ薫のなすがまま。
薫がそっと触れる手のぬくもりと、唇の心地よさに浸りながら、素直に体の力を抜いた。
そんな私の様子にほっとしたのか、薫は私の瞳に口づけたあと、その体を起こした。
今まで私を押さえつけていた重みが消え、その瞬間寂しさを感じた私は薫の体が離れるのにつられるように両手を伸ばした。
「あ……、ち、違うの、これは……」
薫に向けて伸ばされた手に気づいた私は、恥ずかしくて慌ててその手を体に戻そうとしたけれど、それよりも一瞬早い動きを見せた薫がそれを許さなかった。
私の両手を掴むと、気遣うような動きで私の体を抱き起した。
「璃乃、好きだ」