いつでも王子様
「俺には、竜也さんにとっての設計のように、たったひとつ極めたいものも、将来の職業として目指したいものもなかったんだ。成績は良かったしバスケの才能もあったから目立っていたけど、だからと言って満足していたわけじゃなかった。ただ目の前にあるものを要領よくこなしていただけで、将来はどうなっていくんだろうかと不安だったんだ」
「でも、薫は中学の頃から生き生きしてたし、生徒会長もやってみんなから信頼されてたし……」
「確かに、それなりに楽しい毎日を送っていたけど、それは……俺が四人分の人生を背負っているから。そうしなければ父さんと母さんに悪いって思ってたからだ」
「四人分……?」
竜也お兄ちゃんのことといい、今の言葉といい、薫の話すことが全く理解できなくて、私はただ呟き返すしかできない。
竜也に体を預けたまま、これまでの私たちの過去を思い返し探ろうとするけれど、特に心当たりもなく、お手上げだ。
すると、ゆっくりと顔を上げた薫が、私と視線を合わせて照れくさそうに微笑んだ。
私を安心させるかのようなその笑みに、ほんの少しほっとした。
「混乱させるようなことばかり言って、悪い……。まず、中学の頃の俺は、璃乃から慕われていた竜也さんに嫉妬していたんだ。今思えばガキの戯言にすぎないんだけど、大切で一生側にいて欲しいと思っている女の口からたとえおじさんだとしても自分以外のオトコを褒めるような言葉ばかりを聞かされて、正直つらかった」
「うそ……竜也お兄ちゃんは正真正銘私のおじさんだし、奈々ちゃんっていう惚れぬいて一緒になった奥さんだっているのに」
「だとしても、璃乃が竜也さんのことを慕う様子を間近で見るのは苦しかったんだ」
「……そ、そうだったんだ」