いつでも王子様
そして高校を卒業し、医学部に入学した私は、大学の近くのアパートを借りて生活を始め、思った以上に忙しい毎日に右往左往しながらも、医師になる夢を叶えるべく勉強に励んでいる。
……右往左往しているのは勉強だけが原因ではないのだけれど。
目の前でコーヒーを飲みながら雑誌をぺらぺらとめくる男前の存在にも、毎日心を揺らされている。
そう。単なる幼馴染であるはずの薫が私の同居人として同じ部屋で暮らしているのだ。
両親から溺愛されている私が自宅を出るには両親の説得という難関が待ち構えていたけれど、尊敬する教授がいる大学に入りたい一心で必死で両親を説得し、両親は渋々ながら納得し許してくれた。
ただ一つの条件を私に課して。
『簡単な条件だ』
渋面を崩さず、低い声でそう言った父の声に緊張したのは確かだけれど、どんな条件が出されても、それを受け入れて、希望の大学へ通おうと決めていた。
入学すれば、かなりの授業数が待っている。
自宅から片道二時間の通学時間はできれば避けたいという思いの方が強くて、父の条件は何でものもうと決心していたけれど。
『薫くんと一緒に暮らすのなら許す』
そんな条件が出されるなんて想定外で、思わず言葉を失った。
父の隣に座っていた母に縋るような思いで視線を向けたけれど、母もそれに同意しているのかあっさりと頷き、父の言葉に反対する気持ちは微塵も感じられなかった。
『で、でも。薫とは、最近ほとんど会ってないしそれに、男の子と一緒に住むなんて無理だよ』
私の反論なんて少しも取り合ってもらえず。
父が薫と一緒に決めてきたというアパートの契約書を目の前に出され、それから三日後には今住んでいるアパートに居を移し、同時に薫との同居生活が始まったのだ。