いつでも王子様
薫は、私が知っている中学時代の彼よりも、いっそう素敵な男性に成長していた。
高校時代はいつも女の子が周りにいたというし、たまたま家の近所で出会うときにはいつも女の子が寄り添っていた。
中学の時に付き合っていた璃緒ちゃんとは高校に入学してしばらく経ったあと別れたというけれど、その後会う度に違う女の子が薫の隣にいた。
その女の子たちと薫が付き合っていたのかどうかはわからないけれど、薫と同じ制服を着て当然のように隣に立っている彼女たちの姿を見る度、私は苦しくてたまらなかった。
自分で選んだことだとはいえ、違う制服を着ているというだけで、薫が本当に遠くへ行ってしまったように思えた。
そして、薫への恋心を封印することに必死だった私は部活と勉強に励み、薫のことは考えないようにしていたけれど、恋愛に全く縁のなかった私は、薫のようにたくさんの女の子と楽しく過ごすということが高校生としては当然のことなのかもしれないとも思っていた。
『璃乃、またな』
偶然会う度、薫は私にそう言っては笑顔を見せていた。
その笑顔の横にある女の子の顔はまるで般若のように怖いものだったけれど。
『璃乃』
優しくそう呼ばれるたび、私は薫との距離をとろうと必死だった。
自分のものにならない大好きな人。
私を愛してくれるわけなんてないと諦めている人。
そんな薫と一緒に暮らすなんてこと、できない。
たとえ私が薫を好きだとしても、薫は私を家族として好きなだけで、女としては見ていない。
一人暮らしを始める私を心配する兄のような気持ちで両親からのお願いをきいているんだろうけれど、私にしてみればつらすぎてどうしようもないことだ。
片思いの相手と寝食を共にしなければならないなんて、拷問以外の何物でもないのだ。