いつでも王子様
「あ、璃久が年末帰ってくるって。おばさんが会いたくてたまらないからって泣きついたらしいぞ」
雑誌をめくる手を止めて、薫がふと呟いた。
「おばさん、璃久に会いに行きたいらしいけど、一人では行けないって泣き落とし。年末の休みに帰ってくるってさ」
「あ、そうなんだ。母さんもそろそろ限界だろうなとは思ってたけど、とうとう泣きついたんだ」
璃久を海外に行かせることに最後まで反対していた母さんは、毎日璃久と連絡を取り合いどうにか気持ちを保っているけれど、もともと子供中心で生きている人だから、会えない時間は苦しくて仕方がないんだろう。
おまけに私までもが家を出たんだから寂しさはかなりのものに違いない。
いくら父さんと仲が良くても子供たちへの愛情の注ぎ方は半端なものではない。
そんな母がどうして私が実家を出ることをすんなりと許したのか、そしてどうして薫と同居することを許したのか、未だによくわからない。
たとえ薫を信頼しているとは言っても、私の恋人でもない単なる幼馴染。
私が薫と一緒に暮らすとなれば、それなりに心配することもあるだろうと思うのに、どうして文句の一つも出なかったのか。
それに、薫にしても実家から通えば30分圏内の大学なのに、どうして私と一緒に暮らして1時間以上もかけて通っているのかが腑に落ちない。
「ねえ、何度も言うけど。私の両親から頼まれたからって私と一緒に暮らして私を監視しなくても大丈夫だよ。私は医師になるために、勉強一筋で頑張るって決めてるし、親が悲しむようなことはしないから、安心してよ。薫が自分の生活を犠牲にしてまで一緒に暮らしてくれなくてもいいから」
うつ伏せで寝ている薫の隣でそう呟き、その背中にそっと手を置いた。
何度かポンポンと叩いていると、テレビを観ながら薫がくぐもった声をあげた。
「もう少し上を強めに叩いてくれ。昨日PCに向かってる時間が長くて凝ってるんだ」
「は?」
「で、肩をぐっと揉んで欲しいんだけど」
「肩?」
「そう。ここんとこずっと肩こりがひどくてさ。やっぱバスケは続けた方がいいよな。体を動かしてないと体中が凝って凝って仕方がない。大学にもバスケサークルあるみたいだし入ろうかなあ」
「ん……それは、いいんじゃない?」