腕枕で朝寝坊
*熱い夏に
お礼SS
~熱い夏に~
※恋人編(キス後からエッチ前までの夏)
※紗和己視点
なんて華奢な肩なんだろう、と。
暑い季節になって、服の厚みが薄くなったシルエットを見て思う。
夏向けの白いコットンのブラウスは、涼しげで清潔感があって彼女によく似合っている。
決して露出が多いわけでは無い。けれど薄布越しに感じる華奢なシルエットは、確実に僕の気持ちを煽った。
「どうしたの?紗和己さん。難しい顔しちゃって」
「いや、今日は暑いなあと思ってたんです」
初夏の陽射しにキラキラと眩しい笑顔を零しながら、美織さんは自分の日傘を僕に差し掛けた。
「どこか涼しいとこ入りましょう」
そう提案した美織さんに僕も微笑んで頷き返し、ふたりで手近なカフェへと入った。
突然気温の上昇したここ数日。
街は目まぐるしいほど夏の装いに色を変えて。
それは、2週間ぶりに合った美織さんも同じだった。
前回合ったときはまだ夕方は肌寒くて、寒がりな美織さんは結構厚着をしていたと思う。
それがいきなりの夏服なもんだから。
情けないことに、僕は自分の中の高鳴りを抑える事が出来ない。
……去年の夏。付き合う前はどうしてたっけ。
華奢な肩に細くて白い腕。こんな無防備で庇護欲を煽るような姿を見せられたら、冷静になんか接せなかったと思うんだけど。
去年はまだ付き合ってなかったから、そんなに薄着姿を見ていなかったのか。
それとも、恋人同士になった事で僕の欲が加速して過剰に反応してしまうようになったのか。
……どちらにしろ。今の僕には目に甘過ぎる毒だ。
「どうしたの?また難しい顔してる」
うっかり顔に出てしまった僕を、美織さんがテーブル越しに心配そうに見つめている。
どこか不安げに僕を映す瞳はクルリと上がった睫毛に彩られていて、不謹慎ながらも(可愛いな…)と見入ってしまった。
「すみません、なんでも無いですよ。ちょっと窓からの陽射しが眩しかっただけです」
まさか、『貴女の夏服姿にいけない気持ちを抱いてます』なんて、言うわけにもいかず。
適当な言い訳をしてしまった僕に、美織さんは何の疑いも持たず微笑んで
「今日は本当に夏日だもんね。30度越えるってテレビで言ってた」
そう言って窓の外に視線を泳がせた。
そして。
「まだまだ暑くなりそう。髪、結んでくれば良かったな」
独り言のように呟きながら、自分の髪を白くて小さな手で束ねた。
「……っ」
思わず息を飲んでしまった。
普段、陽に曝されない真っ白で細い首筋が目に入って。
無造作に手で束ね持ち上げた後ろ髪。露になった首筋に後れ毛が落ちる。
ああ。もうダメだ、こんなの。
「失礼、ちょっと御手洗いに行ってきます」
冷静を保つよう自分に言い聞かせ席を立った。
アロマの香るカフェの洗面所で、静かに深呼吸し気持ちを落ち着かせる。
……何をしてるんだ僕は。いい歳して情けない。
三十にもなってこんな少年みたいな欲情を抱く自分にため息が出る。
けど。
白い首筋。華奢な肩。細い腕。
正直、彼女を早く抱きたいと云う想いは否めない。
自分は気が長いし我慢強い方だと思っていたけど。
美織さんと距離が縮まれば縮まるほど、僕は自分の中の獣を認識せずにはいられない。
男である以上、愛しさと性欲は切り離せないものだなあと自嘲した笑いが洗面所の鏡に写った。
ただ。
それでも。
洗面所の扉をそっと開き、店内の美織さんに目を向ける。
ひとりテーブルに着き、アイスティーの氷をストローで楽しそうにカラカラ交ぜる愛らしい姿に、思わず目元が緩んだ。
やっぱり、大切にしたい。
こんなにも心から愛しく思える女(ひと)に出会える事は、他に絶対に無いだろう。
鈴原美織さん。彼女に出会えた事が僕の奇跡なんだ。
そう思うと、男の欲情に任せて彼女を抱いてしまう事はあまりに愚かでもったいなさ過ぎて。
この焦がれるようなもどかしさも、今の関係だからこそと思うと楽しくてしょうがない。
「すみません、お待たせしました」
席に戻った僕に、美織さんは嬉しそうに目を細め顔を上げる。
少女のようなあどけない笑顔が、本当にいとおしい。
大切にしよう。今の、今だけのこの距離感を存分に楽しもう。
そして。
いつか。きっともうすぐ。
貴女のその綺麗な身体にたっぷりキスをする日を、僕は楽しみにしていますからね。
「どうしたの紗和己さん。なんだか嬉しそうな顔してる」
「美織さんが可愛いなあと思ってたんですよ」
他の客席から見えないように、彼女の手をとって甲にキスをした。
情熱のプロローグのように。
~熱い夏に・完~