きみの右手にうさぎエプロン
「……ごちそうさま」
カタン、と空になった器の上にスプーンを置くと。彼は長い前髪の隙間から覗く目で、おずおずとわたしの顔を睨んでくる。
なんだろう。わたしも正面の彼を見つめた。
「おかわりならあるよ?」
きっと彼は睨んでいるつもりはないのだろうけど、恵くんの目はシュッと切れ長で、おまけに無表情なものだから。
いつも怒っているようにみえて仕方がない。
あの日以来もう何度も一緒にテーブルを囲んできたくせに、わたしはまだ、こんなふうに彼と目を合わせると少し緊張してしまう。
彼はもういらない、と小さく首を横に振って、わたしに向けていた目を伏せた。
「……今晩、泊めて」
彼の事情を、わたしは知らない。目に見えるのは外傷だけで、彼の抱えるこころの傷までは、わたしには癒せない。
でもきっと、それでも彼はわたしを必要としてくれていて。
わたしはそんな彼に、ちゃんと応えてあげたくて。だから。
「うん。いいよ」
わたしのとなりがきみの居場所になれたらいいのに、って。
「じゃあ、泊めてあげるかわりに食器洗いしてもらおうかな」