きみの右手にうさぎエプロン
――ねえ、恵くん。
きみには、わたしのかける言葉なんてただの同情にしか聞こえないかもしれないけれど。
「えい!」
「わっ、」
キッチンのシンクの前に立って腕まくりを始めた彼の背後に忍び寄って、頭から一気にエプロンを被せた。
そのまま裾を下に引っ張って腰紐をしっかり結んであげれば、ほらできあがり。
「あはは、恵くんそれ似合う」
「……なにこれ」
胸元には、大きな白うさぎのシルエット。
ピンクのギンガムチェックの生地が可愛らしい、わたし愛用の女の子エプロンに、彼はものすごく嫌そうな顔をする。
「中学の家庭科で作ったんだけど、かわいいでしょ?これお気に入り」
「……オバサンのくせに」
「オバサン言うな」
まだピチピチの20代だもん。いいじゃんうさぎエプロン。
確かにちょっと、色が薄くなっちゃって年季を感じるけど。
言いつつわたしが笑うと、まじまじと胸のうさぎを見つめていた彼の表情が、少しだけ。
ほんの少しだけ、
(……笑ってる)
笑っているといえるほどにこやかではなくて。どちらかといえば、やっぱり無表情に近くて。
でも、でも、