きみの右手にうさぎエプロン
 


(恵くん……笑った)


だってはじめて見た。
ふわ、って一瞬だけ。彼の頬が緩んで。固く冷たく閉じていたつぼみが、そっとほころぶみたいに。

笑った。はじめて。

めぐむくんが、わらった。


「うー……」
「え、ちょっと、」

なんで泣いてんの、と彼がおろおろわたしの顔を覗き込んでくる。
理由なんか言ったら、怒られるかもしれない。いい年して。たったこれだけのことで。


涙腺が緩んで熱くなった目を隠したくて、恵くんの胸のうさぎに顔を押し付けたら。傷だらけで、包帯だらけで、それでもきれいなままの彼の手が、ためらいがちにわたしの髪に触れてきて。

「このうさぎ、めぐむくんにあげようか」
「……ばかじゃないの」
「へへ、」


ねえ、恵くん。わたしの守りたいひとが。いちばん大切にしたいひとが笑ってくれるってさ、

どうしてこんなに、あたたかいんだろう。




ぎゅうっと背中に腕を回して抱きしめると、彼もたどたどしく抱きしめ返してくれた。
こどもをあやすみたいに頭のうしろをたたいてくる彼の手は、ぶっきらぼうで、とてもとても優しくて。


わたしはこっそり、また泣いた。



 
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