きみの右手にうさぎエプロン
「……あ、」
わたしがお風呂から上がってきたときには、恵くんはもうソファに横になって、静かに寝息をたてていた。
リビングの照明を暗くして、寝室から持ってきた毛布をかけてあげると、寝返りをうった彼がこちらに顔を向ける。
だらりと垂れ下がった右手に握られているのは、さっきまで着ていたうさぎエプロン。
「……ふふ、かわいー」
瞼にかかった前髪を優しく払い除ければ。そこにはごくごくふつうの男の子の、ふにゃりと力の抜けた無防備な寝顔。
「んー……ゆり、さん……」
ふと息を吐くように彼の口から漏れ出た、わたしの名前。
なんだか離れたくなくなって、ソファの手前に座り込む。
「……めぐむくん」
いつからだろうね。
こんなにこんなに、きみがかわいくて。愛おしくなって。
きみのことが大切で、きみの笑った顔が、もっと見たくて。
きっと、ほんの少しだけ彼を救ったあの日から。
いつでも痛みから逃げて来れるようにと、彼にこの部屋の鍵を渡したあの日から。
(……覚悟ならもう、とっくに)
わたしは、彼の右の目元の泣きぼくろ――今日できたばかりの小さな痣の上に、そっと唇を落とした。