恋の糸がほどける前に

身動きが取れないのは、後ろ手に机についた私の手の甲にかぶせるように、貴弘の手が強く私の手を押さえつけているから。

そう気付くのに、少し時間がかかった。


ほぼ真上にある、貴弘の端正な顔。

この体勢も貴弘がイラついているのも理由がわからずに、私はただただ驚きに目を瞠ったまま、その綺麗な顔を見上げるしかなかった。


「……亮馬のこと考えただろ?」


感情をこらえたような声で、貴弘が呟くように言う。

その言葉に、私は思わずさらに目を見開く。


え、どうしてバレてるの!?


「か、考えてな」


「嘘つくな」


「嘘なんてついてないよ!ていうか早くどいてよ。なんなの!?」


「亮馬のこと考えて女の顔してるお前なんて見たくないんだよ!!」


理由のわからない至近距離からどうにか逃げだしたくて身体を捩ってみたけれど、貴弘が半ば叫ぶように言ったセリフに、思わずその動きも止まってしまう。


どういう意味か分からない。

私に好きな人ができて喜んでいたはずなのに、貴弘がどうしてそんなこと言うの……!?

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