恋の糸がほどける前に
「……っ」
今……。
いったいなにが起こったの……?
思わず、唇を指でなぞってしまっていた。
……初めて、だったのに。
貴弘だってきっと、あれが私のファーストキスだったって分かっていたはずなのに。
私が水原のことを好きだっていうことも、知っているのに。
それなのに、全部分かっていてキスするなんてヒドい……。
「……っ」
貴弘が教室から出ていっても、涙が止まることはなかった。
────貴弘は、意地悪で、口が悪くて、自己中で。
……でも。
他人の痛みはちゃんと分かる人だ。
だから、キスされて私がショックを受けることなんてきっと分かってる。
それでも唇を重ねてきたことに貴弘の本気を感じて、私は余計に涙が止まらなかった。