恋の糸がほどける前に


話したいことがたくさんあるよ。

芽美にしか話せないこと、たくさんあるの。


貴弘のことだって……、そろそろちゃんと返事をしなくちゃ、って思うし。



────チクリ、と。

微かに胸を刺した痛みには、気がつかないふりをした。

笑って送り出してくれる芽美ににこりと笑いかけ、音楽室に向かうため教室を出る。


ふう、とひとつ息を吐き出して、気持ちを入れ替えて。

私は歩みを進めたのだった。




***



「……あれ?雫、戻ってない?」


部活の休憩が終わる直前、近くにいた部長がどこか不安げな声を上げた。


休憩を挟んでパート練習から全体練習に移るため、ほとんどの部員は少し早めに音楽室に戻ってきている。

ソプラノパートのパートリーダーでもある雫先輩はいつもだったらその筆頭で、時間を守らないなんてこと今まで一度だってなかった。


「おっかしいなー、さっきまでいたのに」


部長はそう言って首を傾げた後、雫先輩の姿を探してきょろきょろと周りを見回す。

だけど、やっぱり音楽室に雫先輩はいなくて、部長は心配そうな顔で小さく息を吐いた。


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