恋の糸がほどける前に


「……最近の雫、なんだか無理してる感じがするから、ちょっと心配」


「……っ!」



部長の言葉に、ズキッと心が軋んだ。


……やっぱり、分かるよね。

雫先輩、いつもどおりに振舞うようにしているみたいだけど、どうしたって無理しているのが伝わってくる。


夏休みからずっと元気がない。


今日だってそうだ。

皆の前ではニコニコ笑っているけれど、ふとその表情が翳(かげ)る瞬間があって。

物憂げで、儚くて、今にも消えてしまうんじゃないかってくらい、弱々しい。


……貴弘との別れが今もまだ雫先輩を苦しめているんだって、痛いくらいに伝わってくる。



「……私、探してきます」


「え?そんな、大丈夫だよ。きっとすぐ戻ってくるって。入れちがいになっちゃったら意味ないし」


「でも、私も心配ですし……」


お願いします、と言う私に、部長は少し考えた後小さく頷いてくれた。


「じゃあ、お願いする。でも、すぐ戻ってきてね」


「はい!ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げ、私は音楽室を出た。

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