恋の糸がほどける前に
「……あ」
思わず、声が零れた。
3年生の下駄箱が並ぶ列に、探していたその姿が見えたから。
すぐに雫先輩のほうに駆け寄って声をかけようとしたけど、一歩踏み出した足を私は思わず止めていた。
……雫先輩は、ひとりじゃなかった。
後ろ姿だから、雫先輩がいったいどんな顔をしているのかは分からないけど、雫先輩と話している人……、水原の顔は私がいるところからもよく見えて。
心配そうなその表情が、雫先輩の様子を物語っている。
先輩の俯きがちの後ろ姿はとても頼りなさげで、今にも崩れ落ちてしまいそうに見えた。
細い脚が、小さな背中が、小さく震えているのはきっと、泣いているから。
本当はすぐにでも駆け寄って、私が考えつくだけの優しい言葉をかけてあげたい。
────だけど、私にそんな資格があるはずもない。
先輩を悲しませているのは、他の誰でもない、私なんだから。
「……っ」
何も言葉にできないまま、足を進めることもできないまま、私は雫先輩と水原を見ていることしかできない。