恋の糸がほどける前に
せめて、きちんと貴弘にノーを言えていたら。
私は水原のことが好きだから、貴弘の気持ちに応えることはできないと、言葉にして伝えられていたら。
もしかしたら、違っていたのかもしれない。
ふたりのところに行けたのかもしれない。
雫先輩になにか言えたのかもしれない。
だけど、今の私はどこまでも中途半端なままで。
好きを断る勇気も、好きを告げる勇気もなくて前に進めない私には、今もまた、進む勇気が出なかった。
自分のせいで傷付いている雫先輩を見たくなくて。
傷付いている先輩を見て自分が傷付くことが、怖かった。
だから、水原が雫先輩を慰めるようにその肩に触れても。
心配そうな顔で雫先輩の顔を覗き込むように距離をつめても。
ただ、少し離れたこの場所でひとり、胸の痛みに耐えるしかない。
「……え、三浦?」
「っ!」