恋の糸がほどける前に
今日の傘は、普通のビニール傘に黒で猫の模様が書いてあるもの。
この前芽美と買い物に行ったときにお揃いで買ったんだ。
その時は、傘なんてただのビニ傘でいいのに、なんて思ったけど、やっぱりいざ差してみると可愛い。
楽しい。
買って良かったなぁ、なんて、くるくると頭の上で踊る猫を、ふんふんと鼻歌でも飛び出しそうな気分で眺めながら歩いていたら、ふと、隣に影ができた。
「?」
傘を回す手を止めて、影ができた方とは逆に傘を傾けると、
「はよ。なんか機嫌良いな」
と耳に心地いい、爽やかな声が聞こえた。
「っ!み、水原っ」
驚きすぎて声が裏返っちゃって恥ずかしい。
……だけど、仕方ないと思う。
隣に並んだ人影の正体は、他でもない私の想い人。
水原亮馬(みずはら りょうま)だったんだから────。