恋の糸がほどける前に

「……水原、どうして雫先輩といたの?」

「え?……いや、タオル教室に忘れたから戻ったら、ここでバッタリ会った」

「そうなんだ」


「……泣いてたからほっとけなくて」



そう言った水原の目は、雫先輩が駆けて行った方を追い掛けていた。


────ギシ。


胸の上の方が変な音を立てて、それがとても苦しくて。

一瞬息が詰まったけれど、感じた苦しさを逃がすように、意識して大きくいちど、息を吐いた。


「……雫先輩は私が追いかけるから大丈夫。休憩に出たきり戻らないから心配で探しに来たんだ」

「そうだったのか」

「うん、だから、水原は部活に戻って。先輩に怒られちゃうよ」


そう言うと、水原はようやく視線を私に向けた。

そして少し考えるような表情をした後、渋々といった様子で頷く。


「……そうだな。戻るわ」

「うん。頑張ってね」


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