恋の糸がほどける前に
私の言葉に「お前もな」と笑って、水原はグラウンドに出るために背中を向けたから、私も雫先輩の後を追おうと方向転換をした。
「……三浦!」
しかし歩き出してすぐに後ろから声をかけられ、振り返る。
「……なに……?」
見えた水原の顔がなんだか苦しげなことにどうしてか不安になって、出てきた声は自分でも信じられない位に弱々しかった。
水原も何かを言いあぐねているようで、なかなか次の言葉を返してくれない。
そんな小さな沈黙が心を押しつぶしそうなほどの不安に変わる。
「……や、ごめん。何でもない。またあとでな」
「……うん」
結局、水原が何を言おうとしていたのかはわからなかった。
何を言おうとしてたの、と聞いていたらもしかしたら教えてくれたのかもしれないけど、私にはそうする勇気すらなくて。
「お祭り、楽しみにしてるね……っ!」
せめてもと、再び背を向けようとしていた水原に咄嗟にそう言うと、水原は一瞬虚をつかれたような表情をして、だけどすぐにふわりと笑った。
「おう」
そう言って、今度こそ私に背を向けると、水原はグラウンドに向かって駆けていく。
水原が笑顔を見せてくれたことに、心の底から安堵していた。