恋の糸がほどける前に



「……あれ。葉純?」

「!?」


急に後ろから声をかけられて、私は驚いて振り返った。

……どうしてこいつは、いつもこんなにタイミングがいいんだろう。

振り返った先にいたのは、まさに今、考えていた人。


「貴弘」

「今部活中だろ?サボリか?」

「ちっがう」


貴弘はどうやら帰るところだったらしく、鞄を肩にかけていた。

いつも生徒会の仕事で私より遅く帰ることも多い貴弘が、こんなにはやく学校を出るのは珍しい。


そう思って、

「今日は生徒会ないの?」

ときいてみると「んなわけないだろ」と呆れたような声が返ってきた。


「今日は祭だろ。去年、アホなことをやらかしたやつらがいたから、今年は生徒会全員で見回りしなきゃなんねーの。ホラ」

そう言って右腕を見せてきた貴弘のその上腕には、何とも分かりやすく「見回り中」と書かれた腕章がついていた。


そういえば、うちの高校の生徒が他校生とケンカして警察沙汰になった、って噂、聞いたことがあるような気がする。

< 143 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop