恋の糸がほどける前に
「……あれ。葉純?」
「!?」
急に後ろから声をかけられて、私は驚いて振り返った。
……どうしてこいつは、いつもこんなにタイミングがいいんだろう。
振り返った先にいたのは、まさに今、考えていた人。
「貴弘」
「今部活中だろ?サボリか?」
「ちっがう」
貴弘はどうやら帰るところだったらしく、鞄を肩にかけていた。
いつも生徒会の仕事で私より遅く帰ることも多い貴弘が、こんなにはやく学校を出るのは珍しい。
そう思って、
「今日は生徒会ないの?」
ときいてみると「んなわけないだろ」と呆れたような声が返ってきた。
「今日は祭だろ。去年、アホなことをやらかしたやつらがいたから、今年は生徒会全員で見回りしなきゃなんねーの。ホラ」
そう言って右腕を見せてきた貴弘のその上腕には、何とも分かりやすく「見回り中」と書かれた腕章がついていた。
そういえば、うちの高校の生徒が他校生とケンカして警察沙汰になった、って噂、聞いたことがあるような気がする。