恋の糸がほどける前に
苦笑して、近い距離から私を見る貴弘の目はどこか諦めたような色が見えた。
貴弘のそんな自信なさげな顔を見るのは初めてで、困惑してしまう。
「え、と」
二の句を継げずにいると、貴弘はフッと小さく笑った。
「あー、……図星か」
「!」
「自分で言っといてあれだけど、……やっぱそれなりにくるな、これ」
自嘲するような声に、私はなにも言えずにぐっと何かをこらえるように拳を握っていた。
何をこらえているのかなんて、自分でもわからないまま。
「俺に止める権利なんかないし、こうなることなんて分かってたんだけどな」
目を伏せて、はぁ、と息を吐いた貴弘は、しかしすぐに顔を上げてまっすぐに私を見た。
「変な奴らも多いから、ちゃんと守ってもらえよ」
「え」
「じゃあ」
止める暇もなく貴弘はくるりと私に背中を向けると、あっという間にその背中は遠ざかって行く。