恋の糸がほどける前に


「……なに、それ」


痛みに気付いてようやく開いたてのひらには、くっきりと爪の痛みが残っていた。

だけどそれ以上に痛むのは、息をするのが苦しいと思う程にぎゅうっと鳴いた喉。


どうして?

この前は。

……キスしてきたときは、あんなに強気だったじゃん。

いつもの貴弘となにも変わらなかったじゃん。


なのにどうして今になって、今まで見たことがないような表情を見せるの。

そんな顔をされたら、嫌でも痛感してしまう。

貴弘の想いを。



さっきかためたばかりの決意が、早くもグラつきはじめる。


早く断らなきゃ、中途半端をやめなくちゃ、ってそう思うのに。

きっとさっきが返事をするには絶好のチャンスだった。


決意を決めたばかりで、貴弘と向き合えて。

これ以上ないタイミングだったのに生かせなかったなんて、どこまで私は意気地がないの。


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