恋の糸がほどける前に
────放課後の学校に、いつもと変わらないチャイムが鳴る。
「戻らなくちゃ……」
重い足取りで音楽室に向かう私の心は、ぐらぐらと音を立てて揺れていた。
大切なものを自分から手放す辛さを想像して、ズキンと胸が痛む。
……水原とお祭りだよ?
さすがに今日、これから貴弘に返事をするのは無理なんだから、今はそれだけを考えて喜ばなくちゃ。
水原の前で辛気臭い顔なんかしたくない。
そう思うのに。
さっき初めて見た、普段の自信満々な姿とはかけ離れた貴弘の顔が頭から出ていってくれなくて。
「……はぁ」
私は無意識のうちに、大きなため息を吐きだしていたのだった。