恋の糸がほどける前に
「……え?」
「さっき、葉純の質問に答えなかったけど、やっぱ葉純には言っときたいなって思うから、言うことにした。……今、好きな人いるのかっていう質問。いる、よ。好きな人」
水原の言葉は、いつだってまっすぐで。
いつも、引っかかりなく心にスッと入ってくの。
だけど。
今は違う。
てのひらですくった細かい砂がサラサラと零れ落ちていくように、心にはなにも残らない。
そのくせ、零れ落ちていくたびに私の心に鋭い痛みを伴って深く傷を付けていく。
「そう、なんだ」
『おめでとう』
『よかったね』
『彼女のこと大事にしてあげてね』
思っても無い言葉が信じられないくらいスルスルと口から零れていく。
なんの感情もこもっていない言葉って、こんなに簡単に出てくるものなんだ。
────私は、気付かなかった。
もう水原の顔を見ることなんてできなくて、視線を別なほうにさまよわせていたせいで。
「……サンキュ」
そう言った水原が、本当はすごく辛そうだったこと。
泣きそうな顔で、笑ったこと。
ちゃんとまっすぐに水原に向き合えていたら、きっと気付けたはずなのに。