恋の糸がほどける前に

「……見間違いなんかじゃないよ。ふたりはたしかにキス、してた」

「分かってます。きっとそれが正解だって、ちゃんと分かってる。……でも」


もしも真実が望むものじゃないとしても。


やっぱりちゃんと聞くまでは。

あいつの声で。

あいつの言葉で、聞くまでは。


何の約束もない関係なのに、信じる、というのはおかしいのかもしれないけど。

……それでも。


あいつが、まだ誰のものでもないと、信じていたい。


うん、そのほうが俺らしい。

バカみたいに自分に都合のいい勘違いをしていよう。




「……ずるいなぁ、葉純ちゃん」


ぽつりと聞こえてきた感情のない低い声に、ハッと我に返った。


顔を上げれば、雫さんはまっすぐに俺を見ていた。


「貴弘くんにも水原くんにも、こんなに想ってもらえて。……ずるい」

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