恋の糸がほどける前に
信じたくないと何度瞬きを繰り返しても、目の前にある現実は変わらない。
俺の声でハッとしたように離れた葉純と貴弘さん。
だけど、さっきまではたしかに重なっていたふたりの身体。
抱き合っているふたりの影が瞼の裏をちらついて、はなれてくれない。
認めたくなくなくても、それは確かに、特別な距離だった。
……付き合っているふたりの、距離だった。
雫さんは、こうなることを心配してくれていたのに。
自分でも、きっと叶わないんだと、言い聞かせていたはずなのに。
だけどやっぱり心のどこかで、何かの見間違い、を信じていた自分がいたんだろう。
絶対に葉純は俺の隣からいなくなったりしないと、何の根拠もない自信があったんだ。
……そんなの、ただの勝手な思いこみだったのに。
葉純を前にして、こんなにも心が黒い想いに圧迫されたのは初めてだ。
……こんなふうに見せつけられるくらいなら、躊躇わずに訊けばよかった。
貴弘さんとキスをしたのが真実なのかどうかを。