恋の糸がほどける前に
♯ 1 笑顔とつまさき
♯1
「あ、晴れてる」
濡れて色を濃くしたアスファルト。
あちこちにある水たまりが、灰色の空を映している。
屋根から落ちてきた雫が、ぽつりとその水面(みなも)を揺らした。
さっき窓から外を確認した時にはパラついていた雨は、私が外に辿りつくまでに止んだらしい。
「なんだ、やんじゃったんだ」
開きかけていた傘を、バサッと音を立てて閉じながら残念そうに言ったのは、芽美。
湿気を含んだ風が、ふわりと彼女の髪を煽る。
一歩、歩き出した芽美の爪先が、浅い水溜りをパシャンと蹴った。
「えっ、水たまり!気付かなかった!」
「裾、汚れちゃったね」
「あー、もう。最悪」
アスファルトといってもすぐ傍は草のしげる地面。
芽美のジャージの裾は、溜まっていた雨水が跳ねたというより、泥水が跳ねた感じ。
……まぁ、どうせすぐに裾なんて気にならないくらい泥だらけになるんだろうけどね。