恋の糸がほどける前に
「あ、なんだ。止んでる」
バサッ、と後ろで広げかけた傘を閉じる気配がした。
その声に、反射的に身体がびくりと小さく震える。
「あれ、水原くんも今行くとこなの?」
固まったままふりむけないでいた私の隣で、芽美が後ろに向かって声を掛けた。
「そうそう」
「ふーん。じゃあお先にどうぞ?」
「なんでだよ。一緒に行けばいいじゃん」
どうぞ、と手のひらを上に向けて水原に道を譲る仕草をした芽美に、不思議そうな顔をした水原と。
「そうだよ。一緒に行こう?」
そう言って水原の隣からひょっこり顔を出した、雫先輩。
ふわりと綺麗に笑う雫先輩からは、少し前まで漂っていた悲しそうなオーラはもう出ていない。
「いえ、私たちはゆっくり行くので!お構いなく」
雫先輩に負けない整った笑顔で、芽美はズイッと水原の背中を押した。
「ちょ、押すなって」
「なんだか私たちのほうがお邪魔みたいだよ。行こう、亮馬くん」
半ば無理やり歩き出させた芽美に、雫先輩は笑顔のまま水原の手をキュッと両手でつかむ。