恋の糸がほどける前に
そんな仕草に息が詰まって俯いてしまったから、水原がどんな顔をしていたかは分からない。
地面しか映さない私の視界にある水原の足が動き出して、やがて視界からはみ出して、そして消えていく。
……亮馬くん、って……。
あんなふうに、見せつけるように水原の手をとるなんて。
「……葉純、大丈夫?」
「うん……」
心配そうに声をかけてくれた芽美に頷いて、私はひとつ息を吐いた。
「私たちも行こっか」
「そうだね」
雨水に濡れた地面を踏みしめて、前のふたりに追い付かないようにゆっくりと、歩き出した。
────水原と一緒に行った秋祭り。
水原は彼女が出来たと教えてくれた。
そう告げられた後、いったい自分がどうやって家に帰ってきたのかもよく覚えていない。
気が付いたら、家の玄関に力なく座り込んでしまっていたんだ。
すごく、ショックで。
自分でも驚くくらい、落ち込んだ。
彼女ができたと告げる前の水原は、まるで彼女にするみたいに優しく私に接してくれたから、きっとその反動が大きかったんだ。