恋の糸がほどける前に
水原の言った『彼女』が誰なのかも、すぐに分かった。
いつもなら教室でクラスメイトと一緒に昼食を食べる水原を、昼休みに入ると同時に雫先輩が迎えに来たから。
初日こそ、少し驚いたような顔をして自分のお弁当を手に、教室のドアのところで待つ雫先輩の元に駆け寄っていった水原。
周りのクラスメイトもポカンとした顔をしていたけれど。
でも、お昼に雫先輩が教室にやってくるのが3日目ともなると、だんだん水原もまわりも慣れてきて、当たり前みたいに水原は雫先輩のところに向かうし、クラスメイトも当たり前みたいに水原をを送り出していた。
今ではもう、当たり前になりすぎて、昼休みになると現れる雫先輩にも、先輩のところに行く水原にも、目を向ける者さえいなくなった。
私だけ。
秋祭りから2カ月も経った今でも、ふたりがそういう関係になったことを認められずにいつまでも昼休みのふたりから目を離せずにいるのは、私だけだ。
……どうして、と思った。
雫先輩は、私が水原のことを好きだと知っているはずなのに、どうして、と。
だけどそれを聞くことはできなかった。