恋の糸がほどける前に
今、ふたりは付き合っている。
それだけが真実で。
私の気持ちが水原に向いていたとしても、水原の気持ちが雫先輩に向いていて、雫先輩の気持ちも貴弘から水原に移ってしまったのなら、私にはどうすることもできないことなんだ。
秋祭りから、私が一方的に水原のことを避けてしまっている。
私にはまだ、まっすぐに水原を見る勇気がないから。
友達になんてまだ戻れない。
ううん。
もう、戻れる気がしない。
想いを告げなくてもこんなことになるのなら、いっそ伝えてしまえばよかった。
貴弘からの気持ちを断ち切れずにいることを理由に、逃げてばかりいた自分が本当に恨めしい。
……後悔しかないよ。
「あれかな?合宿棟って」
しばらく坂道をのぼった後、隣を歩いていた芽美が、ふいにそう言った。
その声につられて顔を上げる。
視界に飛び込んできたのは、白い建物。
その入り口の近くにはたくさんの学生がいて、みんな私と同じジャージ姿だ。