恋の糸がほどける前に

今、ふたりは付き合っている。


それだけが真実で。

私の気持ちが水原に向いていたとしても、水原の気持ちが雫先輩に向いていて、雫先輩の気持ちも貴弘から水原に移ってしまったのなら、私にはどうすることもできないことなんだ。



秋祭りから、私が一方的に水原のことを避けてしまっている。

私にはまだ、まっすぐに水原を見る勇気がないから。

友達になんてまだ戻れない。

ううん。

もう、戻れる気がしない。


想いを告げなくてもこんなことになるのなら、いっそ伝えてしまえばよかった。


貴弘からの気持ちを断ち切れずにいることを理由に、逃げてばかりいた自分が本当に恨めしい。

……後悔しかないよ。



「あれかな?合宿棟って」

しばらく坂道をのぼった後、隣を歩いていた芽美が、ふいにそう言った。

その声につられて顔を上げる。

視界に飛び込んできたのは、白い建物。


その入り口の近くにはたくさんの学生がいて、みんな私と同じジャージ姿だ。

< 216 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop