恋の糸がほどける前に
ポケットからケータイを取り出して、貴弘の番号を迷わず押した。
会いたい、と素直に伝えると、驚いた気配はあったけど場所を指定してくれた。
電話を切って、指定された部屋に向かう。
一番上の階の、一番端の、誰も割り当てられていない部屋。
少し緊張しながら部屋に入ると、まだ貴弘は来ていなくて、引かれたカーテンの隙間から零れる月明かりが床に一筋の光を伸ばしていた。
少し埃っぽい臭いが鼻をつく。
パチ、と電気のスイッチを押してみたけど、電球が切れているのか、つかなかった。
カーテンを開けると、さっきまで外で見ていた星空がよく見える。
……電気なんて必要ないね。
こんなに綺麗な月あかりが入りこんでくるんだもん。
ほう、と思わず外の星空に再び感動しつつ眺めていると、背後でドアが開いた音がした。
「葉純」
入ってきたのは貴弘で、静かにドアを閉めて窓際にいた私の方に歩み寄ってきてくれた。